コラム〜ココロの師匠

僕のココロの師について。僕の一番好きな作家、というより一番尊敬する作家は、村上春樹氏である。彼の凄さは、比喩表現の巧さ。直喩や隠喩(メタファー)の扱いのセンスが絶妙なのだ。また、彼は「記号論」という高度な学問を巧みに活かしながら、独特な物語世界を構築する天才だと思う。時にコピーライターは「比喩表現」を駆使して、絶妙な商品アピール、企業アピールの方法を探ったりするので、もし彼がコピーライターになっていたら・・・・誰も敵わなかったかもしれない。

村上春樹氏の凄さを僕なりに、もう少し勝手に解釈するなら・・・絶妙な比喩の多用が、独特の文体とリズムを生みだしている。現実(リアル)と非現実(ファンタジー)を混在させつつ、ストーリー展開しながらも、一切の破綻がない、その巧みな構成力。比喩表現はそもそも読者のイメージを喚起し、想像力を膨らませる作用があるから・・・それが多用されることで、幾重にもイメージが膨らみ、物語が進むにつれて、重層的になり、読者のアタマとココロに不思議な世界観の余韻を残していく・・・その心地よさにはまった読者は、どんどん村上春樹ワールドに魅せられていく・・・・そんなところだろうか。

さらに。宮崎駿監督にも通じるのであるが・・・「世の中の見えている部分の裏に存在している、見えない部分の量や深さを、感じさせる作品」。「どす黒い闇の深さを想像できるような・・・計り知れない底の深さをかいま見るような・・・そんな作品」。村上春樹氏もやはり、我々には到底辿り着けない領域で発想しながら、とてつもない「深み」と「質量」を自らの小説に込めている。人間の潜在意識と奥深い闇の世界をつなぐ、エントランス(結界)。それが村上作品の凄みなのか。

今やノーベル文学賞候補の常連となった村上春樹氏。海を越えて。国境を越えて。世界中の人々の意識を触発し続ける彼の次回「結界作品」が待ち遠しい。

Text by 濱本益元

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