コラム〜恋文の日々。

ラブレター、恋文・・・この字面と響きは、僕にとって特別な意味を持つ。なぜなら、僕がコピーライターになったきっかけそのものだから。10代の頃、まったく読書をしなかった僕が、本を読み始めたのは、恋をしたから。どうにもならない気持ちをぶつけるために、ラブレターを書き始めた。毎日、毎日、書き続けた。もちろん内容は稚拙で、酷いものだ。書けば書くほど、恥ずかしい。

ジューク・ハタチの恋。恋のチカラは、人を変える。

ある日、僕は一念発起する。そして小説にはまる。乱読の日々。夏目漱石、島崎藤村、川端康成、中勘助、志賀直哉、谷崎潤一郎、梶井基次郎、太宰治、三島由紀夫、林芙美子、高村光太郎、五木寛之、三浦綾子、開高健、サガン、サリンジャー、フィッツジェラルド、ブラッドベリ、チャンドラー、松本清張、江戸川乱歩、横溝正史、星新一、宮沢賢治、筒井康隆、片岡義男、森村誠一、阿刀田高、村上龍、村上春樹・・・・

文学をスポンジのように吸収した。好きな小説の引用なんかしちゃったりして。なんとかまともなラブレターになってきた。でも、1年以上書き続けて、郵便ポストに投函したのは、わずか3通。
今となっては、どんな内容だったか、何も覚えていない。ひとつ言える確かなことは、ラブレター修行を通じて僕は、ライティングの面白さに目覚めたってこと。あの熱病のような恋文の日々が、僕のコピーライターとしての原点であることは間違いない。

ちなみに、その恋は実らなかった。3回くらいはデートしたけれど、ラブレターのようには饒舌になれず、朴訥(ボクトツ)を絵に描いたような滑稽なシーンの記憶しかない。胸がいっぱいで、アタマとココロとカラダの連携がとれず、バラバラ。何一つ、スマートに事が運ばない。思えば僕らの恋は、まるで間の悪い漫才師のように、ことごとく噛み合わないまま、もどかしさの固まりのキャッチボールを繰り返しただけだった。そして最終的には僕の想いの、あまりにも“変てこりんな強さ”に、彼女が引いてしまったんだと思う。その真意はわからないけれど・・・。

というわけで、この恋文の日々が原点となって、僕はコピーライターになった。振り返ってみると、僕はずっと「恋するように」コピーライティングをしてきたような気がする。特に人の生き様を浮き彫りにするインタビュー記事に関しては、無意識のうちに、取材対象者への「恋文」を綴っていたのかもしれない。過去の作品を読み返してみると、確かにそこに、僕の恋心がそっと刻まれている・・・。

Text by 濱本益元

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